例 え ば こ ん な ク リ ス マ ス
5 
「……あ」
ふと窓の外を見た海堂が、小さく声を漏らした。
「どうした、海堂?」
「雪……降ってるっスよ」
「えっ!?」
「マジでっ!?」
その言葉を聞いた菊丸と桃城が、すぐに窓を覗きに行く。
「あーっ、ホントだ!」
「え、本当に降ってるの?」
「すげー、今日雪降るなんて言ってなかったっスよね?」
「やった、ホワイトクリスマスじゃん!」
いつの間にか、ほとんどの興味は雪に向けられていて、全員が群がって窓ガラスにへばりついている。
「ここに来るときから寒い寒いとは思ってたんだけど…」
「明日、起きたら積もってるかな?」
「積もってたら当然練習は休みっスよね、桃先輩?」
「え? まあ、そうだな。雪積もったらテニスコートも使えないからな」
「じゃ、できたら積もってて欲しいかも」
「おいおい、お前練習休む気かよ?」
それぞれ思い思いに感想を言ってから、また食べ物・飲み物の山に群がり始める。
男子中学生の食欲というのは底無しなのだ。
シャンパン片手に嬉しそうに骨付きチキンにかぶりつく桃城や、さっきからファンタばっかり飲んでいるように見えるリョーマ、ただ1人しか喜ばないような超激辛メニューを嬉々として口に運んでいる不二。
無礼講なのだろうが、もうちょっと遠慮して食べて欲しいと、天性の中間管理職的性格の大石はそれを見て思ってしまう。
そんな部員達を尻目に、いまだに窓の近くに座り込んで外の雪を見ている人物が1人。
部屋の隅に畳んで置いてあったコートを取って、大石はそこに近づいていった。
じっと雪が降るのを見ていたら、いきなり後ろからコートが掛けられた。
わけのわからないまま振り返ると、そこには見慣れた人物が立っていた。
「大石」
「いつまでもそんなところにいたら風邪ひくぞ」
そう言って、大石はすぐ隣に腰を下ろす。
「手塚って、そんなに雪が好きだったっけか?」
「そういう訳じゃないが……考えてただけだ」
「何を?」
「3月になったら卒業するのか、と思ってな…」
「…そうだな。」
引退した今でも毎日のように通っているとはいえ、事実上部活は引退してしまったし。
それに、あと3ヶ月もすれば自分達は卒業していって、もう中等部の人間ではなくなってしまうのだ。
普通はこれからが受験シーズンの本番なのだろうが、この中のほとんどはすでに高等部への内部進学が決まっている。
それに。
「4月になったら、今までみたいに会えなくなるな。」
「まあ、電話でもすればいいさ。 向こうって時差どれくらいあるんだっけか?」
「確か、7時間だったと思う。」
あっちの方が日付は1日遅れてるらしいが、と付け加えた。
手塚自身は、4月からはアメリカへの留学が決まっている。
自分の腕を認めてもらえるのは嬉しいし、強い奴に出会えると思うとわくわくするけれど。
もちろん向こうに行ってしまえば、大石とだってしょっちゅう会えなくなってしまうわけで。
『俺は、向こうに行った方がいいと思うよ』
全国制覇を果たして引退したあと、留学すべきかどうか迷っていたときに、大石に言われた言葉。
あの時、少なからず動揺したのは記憶に新しい。
その言葉は彼なりの優しさなのだと、わかっているはずのに不安になった。
まるで、お前なんてもういらないんだと言われているようで。
その時は、大石に向かって感情のままに言い返した。
胸の内に溜まっているものを全部吐き出すように、懸命に言葉を紡いで。
でも、それでも大石はちゃんと話を聞いてくれて、その上でちゃんと説得してくれた。
だからこそ、自分は留学を決めることができたのだ。
何の文句も言わずに、笑顔で送り出そうとしてくれた。
それが自分にとってどれだけ大切なことだったか。
「ま、ほどほどに頑張って来いよ。」
「ああ、わかっている」
「無茶したって、俺は止められないんだからな。
無理しないでちゃんと自分でセーブしとかないと、また痛い目にあうぞ」
なんてったって、お前は前科者なんだから。
「うるさい」
さすがに、この言葉には手塚自身も苦笑してしまった。
「引退もしたんだし、今のうちに出来るだけ会っておかなくちゃな」
「じゃあ、冬休みにどこか行くか」
「おっ、デートのお誘い?」
「はっきり言うな」
「留学するまでに、越前にたぶらかされないようにな」
「…わかった(たぶらかされる…?)」
「ちょっとー、そこ! 2人でなにをイチャついてんだよっ」
さりげなく話の輪から外れている大石と手塚に気付いたギャラリーから野次が飛ぶ。
「英二、イチャついてるって言うのは勘弁してくれよ」
「だって、思いっきりイチャイチャしてんじゃんよ!」
「今日はみんなでパーティーなんだからね。恋人達のクリスマスは別の日にやってよ」
「勝手に2人だけの世界に入んないで欲しいんスけどー」
「わかったよ、そっち行けばいいんだな…ほら、手塚」
渋々という感じで、大石と手塚は食べ物が乗っているテーブルに戻る。
「ねえねえ、手塚」
「なんだ」
「顔赤いよ?」
「あっ、ホントだ赤くなってる!」
「なんだ手塚、照れてるのか?」
「うっ、うるさい! ほっとけ!」
「やだ。」
「だって、手塚をからかうのが一番面白いんだもん」
「〜〜〜〜〜〜っ…!」
「…おい、海堂」
「俺に話しかけんな」
「っていうかさ、部長と副部長って付き合ってたのか?」
「さあ、な」
「なんか、俺達だけ話題に遅れてる気がする…」
「………………」
こうして、夜は更けていく…………。
End
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TOPと同じく雪降らせてみました。重いでしょうか?