友人K&Fの思い出<後>
何の変哲もない晴れた日の午後、昼休み。
窓の外をボーっと見ていた不二の耳に、慌てているような、ドタバタとした足音が聞こえてきた。
そして、徐々にその足音は不二の教室まで近づいてきて。
「ふっ、不二〜〜〜!!!」
大石のクラスに行っていた菊丸が帰ってきたのだろうと、不二は顔を上げた。
足音の人物は予想通り菊丸だったが、その様子が尋常ではない。
ここまで全力疾走でやって来たのか随分と荒く息を吐き、その表情もどこか慌てたような、焦ったような表情である。
「どうしたの英二。 まだ授業まで10分もあるから、そんなに急がなくても大丈夫だよ」
「ちっがーう、俺はそんなこと気にしてるんじゃにゃい!
それどころじゃないんだって、大変だ不二、スクープ!」
「え? 何、どうしたの」
不二が話を先に進めるように促すと、菊丸はすぐ近くに人がいないのを確認してから、ボソボソと小さい声で言った。
「さっき大石と話してたんだけどさ、話の成り行きで恋愛話になったんだよ。
でさー、俺は冗談で『例えば手塚みたいなのどう思う?』って聞いたのね?」
「ちょっと英二、それは大石に話しちゃ駄目だって言っといただろ?」
数週間前、手塚の話を聞かせてから、不二は菊丸に「何があっても他の人には言わないように」と釘を刺しておいた。
菊丸は大石と非常に仲が良く、うっかり口を滑らせて手塚の気持ちを本人にしゃべってしまいかねない。
そもそも自分が、手塚から聞いた話をつい菊丸にしゃべってしまったのだが、手塚の気持ちは応援してやりたいとは思っているのだ。
話が変にこじれてしまわないように、不二は菊丸に『他言無用』と伝えていた。
「ゴメンってば、でも俺、手塚が大石のこと好きだとは言ってないし、『例えば』って事前に前置きして話したもん!
『手塚みたいなの』って言っただけだからいいと思ったし、大石も普通に答えると思ったんだけど…」
「思ったんだけど?」
「そしたら大石の顔があっという間に赤くなってきちゃってっ!!!」
「え?」
「大石ってば明らかに動揺してたからにゃ、ちょっと聞いてみたんだ。
『手塚みたいなの好きなの?』って。」
「それで、大石は?」
「最初に聞いたときだけは違うって言ってたんだけど、すぐに観念してホントのこと言った。」
「なんて?」
「手塚が好きだって」
しばし間があって。
「ちょっと待ってよ、それ本当!?」
「本当だよ! 俺、ちゃーんとこの耳で聞いたもん!すっごいビックリしたよっ」
菊丸だけでなく、不二もかなり動転しているらしい。
いつもの彼らしくもなく、驚きのあまり大声を上げている。
「それってもしかして、もしかしなくても両思いってことだよね、あの2人?」
「そうなんだよ〜っ!!」
「手塚の片思いじゃなかったのっ?」
「俺もそう思ってたよっ、でも大石が言ってたんだって!」
「………………」
「………………」
一通り言い終わると、ある程度は落ち着きを取り戻すことが出来た。
でも、落ち着いて冷静に考えたとしても、やっぱり多少の驚きはあるわけで。
「……そうなんだ、大石がねぇ………」
「うん、1年のときから好きだったんだって。手塚のこと」
「ちょっと意外だったな…」
「まあ、でもありえない話じゃないかにゃって思うけど。」
「本人達は、一方的な自分の片思いだって思ってるんだろうねー」
「ちゃーんと両思いなのになー。
教えてあげたいぐらいだよ、向こうもそっちのこと好きなんだよって」
「まあ、でもそれはおせっかいってもんだからね。
黙ってたほうがいいとは思うんだけど、あの2人だといつまで経っても進展しないような気がするね」
「そうだにゃ〜。ちゃんとうまくいくのかな? 大石と手塚。」
「あの2人は結構一緒にいるからね。
ちょっとしたきっかけで進展するとは思うんだけど…」
「そうそう〜。」
「うまくいくといいよにゃ〜。」
「うん、そうだね」
不二と菊丸は、その「なかなか進展しなさそうな」2人を思い浮かべ、溜め息をついた。
話はいきなり現在へと戻る。
不二、菊丸、そして手塚と大石は、4人一緒に屋上で昼御飯を食べていた。
「そういえばさ〜、2年生の頃だっけ? 大石と手塚って、まだ付き合ってなかったじゃんか」
「ん? ああ、そうだね。」
「あの頃さ〜、不二は手塚から恋愛相談されてて、俺は大石から恋愛相談されてたよね。」
「え?」
全く同じタイミングで、大石と手塚が菊丸の言葉を聞き返す。
「にゃはははは、ホント、2人とも息合ってるな〜!」
「…どういうことだ、菊丸?」
「不二、もう言っちゃってもいいよね?」
「いいんじゃない? もう時効だし」
「ちょっ、ちょっと待てよ英二…なんの話だよそれ?」
「あーもー、大石は黙ってんの!」
「僕ね、あの頃手塚から恋愛相談受けてたんだよね〜」
「れっ、恋愛相談?」
「真剣な顔してさ、『どうやら俺は大石が好きらしい』って。」
「え…?」
「ふっ、不二っ!!余計なことを言うな!」
「実は僕、あの後にそれを英二に話しちゃってね。」
「なっ…!」
「実は俺もさ、手塚は大石が好きだって知ってたんだよにゃ。」
「不二、お前、約束違反だぞ! 誰にも言わないって言っただろう!」
「ごめんってば、でもその後は僕も英二も誰にも言ってないから、許してよ〜」
「菊丸に話したなんて聞いてないぞ、俺はっ」
「まあまあまあ、抑えて抑えて。
そしたらにゃ、しばらく後になって、大石も手塚のことが好きだって話を聞いたんだ。」
「…??」
「手塚も大石もまだ気がついてないんだろうけど、
僕たち、あの時から手塚と大石が両思いだって知ってたんだよ」
「え?」
「ちょ、ちょっと待て。 じゃあ、お前らは最初から全部知ってたのか!?」
「そうだよ。僕たち、大石と手塚がうまくいくもんだって、最初から思ってたもん。
両思いなんだから、きっかけさえあれば成就するはずなのにねって、いつも英二と話してた」
「そうそう。 どっちかが自分の気持ち伝えちゃったら、2人ともうまくいくのになーって」
「そ…そうだったのか…?」
「それから大石にもずーっと相談されてたけどさ、大石は自分の片思いだって決めつけてるんだもん。
すっごい変な気分だった! だってこっちは両思いだってわかってるのにさ、それを大石に直接言える訳ないじゃん!?」
「僕も、それから何回も手塚に相談されたよ。
けっこう落ち込んでたりもしたんだよ、『どうせ俺は大石にとって友人でしかないんだ』ってさ。」
「ちょっ、手塚お前、あのときそんなこと思ってたのか?」
大石は手塚に問いかけたが、手塚は何も言わずに、ただ赤くなっていた。
「〜〜〜、不二っっ!!!」
「ごめんってば〜、
でも手塚、恋人に隠し事してるなんてよくないよ? いいでしょ、これで全部すっきりしたんだから」
「うるさい! 言っていいことと悪いことがあるだろうっ」
「もう、手塚ってばそんなに照れにゃいでよー」
「照れてない!」
「おいおい、落ちつけって手塚」
「大石、お前もなんで喜んだ顔してるんだっ」
「……ま、なんにしても恋が実ってよかったよね、大石と手塚」
「そうだにゃ〜v」
大石と手塚の恋愛成就の影に、実はこの2人の協力があったとか、なかったとか。
とにかく、2人の恋を応援してくれていたのは確かである。
後半ちょっと急いで書いたので、いつにもまして文章がまとまっておりません。
相互片思い、またの名を両思い。
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