例 え ば こ ん な ク リ ス マ ス

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「…でも、なんだかズルいっスよね」
と、今まで一切喋らずにジュース(勿論ファンタグレープ)を飲んでいたリョーマが口を開いた。

「え、何が?」
「部長がっスよ。 留学しちゃうなんてズルいじゃないスか」
俺はもう部長ではないのだが、と手塚がぼそっと呟く。
「だから、何で?」
「だーかーらー…、」
どことなくイライラしながら、リョーマは言葉を紡ぐ。

「俺に勝ったまんまで外国行っちゃうなんて卑怯っスよ!
 部長をコテンパンにやっつけるのは俺の役目なんだから、それまで近くにいてくんないと試合できないじゃないスか」

リョーマの言葉にほぼ全員が目を丸くし、それからどっと笑いが起きた。
「あはは、そりゃすげーわ!」
「まったく、越前らしいなぁ…」
「おチビぃ、仮にも先輩なんだからさ、そんな敵みたいな目で見ないの!」
「先輩だろーが何だろーが敵は敵っスよ。」

「…越前。」
「…何スか?」
黙って話を聞いていた手塚が、初めてリョーマに話しかけた。
「留学したからって、二度と試合が出来ないわけではないだろう。
 長い休みになったら帰ってくる。その時にならいつでも出来る」
「だけど、」

「…だったら、お前が追いかけてこい」
「え?」

「お前だってあと2年したら卒業するんだ。 そうしたら、俺を追いかけてくればいい」
「…それって、俺にも留学しろってこと?」
「そうだ」
「…勝手っスね」
「自分でもそう思う」
「まあいいけど。 気が向いたらアンタを追っかけてってあげるよ。 向こう行って他の奴に負けるのは勝手だけど、一番先に部長を倒すのは俺だって決まってんだからね。それまで他の奴に負けないこと」
「…わかった、できるだけ努力する」
「できるだけじゃなくて、絶対負けんなっつってんスよ」
「……………………」
「……………………」
2人とも黙ったまま、お互いを見る。
それが周囲にも伝染してしまい、全員がしーんとしてしまった。

「……………(…け、険悪ムード…?)」
菊丸は2人の様子を見て慌てていたし、
「……………(なんていう顔してるんだろうね、越前ったら。くす)」
不二はそれを楽しそうに見ていたし、
「……………(おいおい、そんな目で部長睨んじゃいけねえな、いけねえよ)」
桃城は生意気かつ負けん気の強い後輩に心の中で注意していたし、
「……………(…怖いモン知らずだな、アイツ)」
海堂はリョーマの性格に驚きを通り越して感心していたし、
「……………(うわー、なんか2人とも怖いなぁ)」
河村はただひたすらオロオロしていたし、
「……………(い、胃が…)」
大石は自分の胃を案じていたし、
「……………(睨みあったまま10秒経過、と)」
乾は興味深げにデータを採っていた。



「そ、そういえばさぁ! 確かおチビ、今日誕生日だったよね!?」
沈黙に耐えきれなかった菊丸が、大きな声でリョーマに問いかける。
「え? …まあ、そうっスけど」
「えっ?そうなんだ?」
「へー、俺全然知らなかったわ! お前クリスマスイブ生まれなのかよ!?」
「今更気付いたんスか、桃先輩?まだまだだね」
「おいおい…」
「じゃあ、もうプレゼントとかもらったの?」
不二が尋ねると、リョーマは明らかに不機嫌そうな顔をして、
「別に。何ももらってないっス」
「エー!?家族とかからは?」
「うちの親父がそういうのにマメなタイプに見えます?」
「う…… 見えないけど…」
「でしょ?」
「よし、じゃあさ、俺達からプレゼントあげようよ!」
「え?」
菊丸の突然の呼びかけに、桃城が焦ったように反論する。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよエージ先輩! プレゼントっつったって、今月小遣いピンチなんスよ、俺…」
「いいっスよ、何もくれなくても…」
「遠慮しなくてもいいにゃ、どんどん言って!」
「別に、そんなに欲しい物ないし」
「でも、なんだかそれじゃつまんないじゃん!」
「……あ。ひとつだけあるっス。欲しい物」
「え?なになに、言ってみな」
その言葉に、リョーマは「してやったり」というようにニヤリと口元を引き上げ、
立ち上がって手塚のすぐそばに近寄り、しゃがみこんだ。

「…なんだ」
「部長、俺今日が誕生日なんっスよ」
「ああ、それは聞いていたが…何もあげられる物はないぞ」
何だか不穏な雰囲気がする、と不二は密かに思っていた。
あの越前リョーマの満面の笑みなど、滅多に見られる物ではないから。
何かたくらんでいそうだと。
「大丈夫っスよ。ちゃーんともらいますから」

そう言うとリョーマはその手で手塚の眼鏡を外してしまう。
「………?」
急に視界がぼやけて手塚が動揺しているところに、両手で強引に手塚の顔を自分に向かせる。
そして。


「あぁ―――――っ!!!」

手塚の唇に、リョーマが軽く口付ける。
勿論、その光景はその場にいた全員に目撃されていた。

「!!!!!」
見る見るうちに手塚の顔が真っ赤になっていき、慌てて唇を押さえる。

「ななななな、何やってんだよおチビ!」
勝ち誇ったように悪戯な目を見せるリョーマ。
「うわっ、お前思いきったことやるなー!」
「おい、テメー部長に何してんだ!」
「これはすごいな。不二でさえもこんな手段は今まで使ったことなかったぞ」
さすがは傍若無人なだけあるな、とデータを採る乾の横で。
「越前………?(怨)」
不二が黒いオーラを出して、リョーマに近づこうとしていた。

「なんスか、不二先輩」
リョーマはそれに全く動じることなく、怨念のこもった視線を一心に受けていた。
「あのねぇ、越前?世の中にはね、やっていいことと悪いことがあるんだよ」
「そんなの俺の知ったこっちゃないっスよ」
さっきまで目を細めて、いつもの本心の分からない笑みを見せていたのに、今はその目が開かれていて、常人ならばその恐ろしい視線に硬直してしまう所なのだが、越前は威勢よくニヤリと笑ってみせる。
すると不二はリョーマの首を両手で固定して、地の底から出てくるような声で呟く。
「人のモノには手を出しちゃ駄目だって、子供の頃に教わらなかったのかな?」
「別に不二先輩だけのモノじゃないでしょ、部長は」
「僕のモノじゃないけど、手塚は一応大石のモノだよ」
「え?」
「見てごらん、大石が困ってるでしょ?」

不二が視線を向けた先には、その様子を見て苦笑している大石がいた。
急に話を降られて、内心困ってるようにも見える。
まさか、と思いつつも不二に尋ねてみる。
「…要するに、一番の敵は大石先輩だってことっスか」
「うん、そうだね」
「…………………」
今までノーマークだったけど、甘かったか……。
リョーマにとっては、思わぬ伏兵がいたという感じである。



「……越前……………」

ほんの少しだけ落ち着きを取り戻した手塚が、まだ赤い頬のままでリョーマを呼ぶ。

「なんスか部長? グラウンド30周? それとも40周?」
手塚の言動などほとんど理解しているリョーマは、これからどんな言葉が発せられるか大体予想がつく。
それは、部長でなくなった今でも変わらぬまま。

「…ご、50周だっっ!!!」


「はーい。じゃあ今度の部活で走っとくっス」
「……桃城にちゃんと監視してもらうからな……」

手塚の動揺と怒りは、当然まだおさまらない…。



「ちょっと待って、俺が監視しなきゃいけないんスか?」
後ろでは、面倒な仕事がひとつ増えてしまった桃城がボソッと文句を言っていた。






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