君と、走る。 <前>











死の宣告に近いような言葉を告げられた瞬間は、
不思議と悲しくなんかなかった。
涙も出なかった。
表情だって、何一つ変えなかった。









二人っきりになった時に。

先に涙を流したのは自分ではなく、目の前の彼だった。




優しく自分を見てくれていた瞳は悲しげに伏せられ、頬を涙がつたう。

今までで一番、悲しそうな顔をしていた。




その様子が、何だか痛々しくて見ていられなくて、
思わず手を伸ばしていた。







「大石」

顔を上げた彼の頬を、両手で包んで。





「泣くな」







「……ああ、」
彼は、顔を歪ませて笑った。


「悪いな」


それでも、流れる涙が止まることはなかった。






「……夢だったんだよ、俺の」


「何が?」





「手塚がプロになったときに、
いつでもそばにいて、サポートしていくのが…」


言葉をちゃんと理解するには、少し時間がかかった。




「夢だったんだ。 …随分と勝手な話だけどさ」
自嘲気味な口調。








「…ごめん」


呟くと、彼は少し驚いたような顔をした。



「謝らなくてもいいよ…」

両腕が伸びてきて、
痛みを感じないように優しく、それでも、気持ちが伝わるように強く、
自分の身体を抱き締めた。









ああ、そうか。




この腕に寄せられている思いは、
自分のものだけではなかったのだ。





この夢は、自分だけの夢じゃなかった。

彼の望みでもあったのだ。






そう思った途端、
急に悲しくなった。






「………手塚…?」

背中を抱きしめていた片方の腕が離れて、
自分の顔を上に向かせる。


眼鏡をそっと外して、見つめられる。



「泣いてるのか…?」



視界が急にぼやけたが、
それは、眼鏡を取っただけのせいではない。

目尻にたまっていた涙が、限界を通り越して溢れ出した。







「…大石……」

やっとの思いで発した声は、
彼に伝わるときには、完全な涙声になっていた。


嗚咽をこらえることが出来なくて、
彼の背中にギュッとしがみつく。



知らないうちに、自分はこんなにも傷付いていたらしい。





なだめるように、そっと背中を撫でてくれる彼の手。
それがとても優しくて、どっと涙が溢れ出す。




「手塚」

自分を呼ぶ声も、触れる手も、かけられる言葉も、その背中でさえも。


「辛い、よな……」
静かに話しかけてくれる彼だって、必死に涙をこらえている。

彼は、どうしようもないほど暖かい。











この暖かさを。

彼の優しさを。


絶対に、無駄にはしたくない。





それが、この時、手塚が唯一感じた思いだった。







こんなん書いちゃってますが、
本当にこんな展開になったら私は許斐先生を恨みますよ!(苦笑)




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