跡塚で美女と野獣ネタ〜切れ端〜
一応話の流れに沿った順番になってます。
(このまま死んだら、俺は街では行方不明者扱いになるのだろうか…)
手塚は朦朧とした意識の中で思考を巡らせる。
まともな布団も用意されていないような冷たい石牢、おまけに最近の初秋の冷え込みも手伝い、手塚は数日前から風邪気味だった。
しばらくすれば治るだろうとたかをくくっていたのだが、思いの外に症状が悪化したらしく、おかげでこの有様だ。
忍足達に助けを呼ぼうとしても、掠れた喉ではまともに声も出ず、ひゅーひゅーと呼吸をすることしかできない。
数日前ならば何とか声も出ていたし、向こうに知らせることもできたのだろうが、元来手塚は弱いところを簡単に人に見せられるような人間ではなく、今まで助けを呼ぼうとはしなかったのだ。
息は荒く、視界も薄暗い。
寒気がする上に、頭は割れそうに痛んでいた。
自分が息をする音がうるさいぐらいに聞こえる中で、手塚は意識がだんだんと遠のいていくのを感じていた。
夕食を届けに来た宍戸が倒れている手塚を見つけたのは、それから一時間ほど経った頃だった。
食堂にいた跡部の元に、がちゃがちゃと騒々しい音が聞こえてくる。
おそらくは忍足、そして岳人とジローだろう。
「いたいた、跡部〜っ!」
「跡部っ、大変やで!」
「………うるせえな、何だよ…」
予想通りの声に、多少げんなりしながらもそちらを振り向いた。
「今メシ食ってんだよ、話なら後にしろ」
「そんな悠長なこと言うてられへんねん!」
「……あとべ。 あのね、手塚が」
「…手塚が?」
思い出したように口を開いたジローの言葉に、食べていた手を止める。
「宍戸が夕飯届けに行ったら手塚が倒れてて、名前呼んでも何しても起きないんだって!」
「ちょっと風邪気味やったみたいでな、最近ずっと咳き込んでたんや。
ひどくなる前に気付いてやれれば良かったんやけど…」
「風邪がこじれたんじゃないかって、樺地もゆってた」
「あのまま悪化したらやばいって! 看病してやらないと危ないよ」
次々と告げられる言葉の山に半ばうんざりしながらも、跡部が口を開く。
「…樺地」
「ウス」
「うちの城のかかりつけの医者がいたろ、そいつを呼べ。
なるべく早くだ。 寝てたら叩き起こしてでも連れてこい」
「ウス…」
樺地が頷いて部屋を出ていったすぐ後、跡部も椅子から立ち上がる。
「跡部?」
「どこいくんだよ」
忍足や岳人が問いかけても跡部は何も答えず、そのまま食堂を出ていった。
みんなが城から去っていった後、2人きりになった部屋で、手塚は跡部の顔をじっと見つめ続けていた。
とりあえず跡部は手塚の好きなようにさせていたが、あまり見られていると居心地が悪い。
「……そんなに俺の顔はおかしいかよ?」
跡部の声色がやや不機嫌そうに聞こえたので、手塚はハッとしたように見るのをやめた。
「悪い。 …その、お前が」
「俺がどうしたよ」
「まだ、信じられない」
どこか恍惚とした表情で、手塚は跡部の頬を撫でた。
「…確かめてるんだ」
「何を」
「お前だってこと」
「瞳は…前と同じだ」
滑らせた指の先には、鮮やかな青色。
魔法をかけられていたときも、そしてそれが解かれた今も。
跡部の瞳の色は、透き通るような青だ。
手塚はそれが不思議に見えたし、その目がとても好きだった。
名残惜しそうに指を離した手塚が、跡部には少し不愉快だった。
「…そんなに昔の俺の方がよかったのかよ?」
「そういうわけではない」
「じゃあ何なんだよ、さっきから…
少しは今の俺を見ろっつの! もうちょっと感想ねぇのかよ、格好いいとか美しいとか好きだとか」
「そんな思ってもいないことを、わざわざ口に出して言うことなんかできん」
「なぁにぃ〜!?」
「前の方がいいとか今の方がいいとか、わざわざ比べる必要はないだろう。
中身が同じなら、俺はどちらでも構わない」
それを聞いて、跡部はにやりと笑みを浮かべ、
「そうかよ。 けどな」
「…っ!?」
そうして、そのまま手塚をベッドへと押し倒した。
「獣のままじゃ、こういうイイ事できねぇぜ?」
まるで噛み付くような口付けだったが、手塚はさして抵抗する様子を見せなかった。
それを了承の合図と取り、跡部は彼の脇腹に手を差し入れた。
組み敷いた手塚の口から熱っぽい吐息が零れるまで、それほど時間はかからなかった。
(↑サイト初の微エロ…!?)
「……跡部。 跡部!」
「…間に合わへんかったか…」
「くそっ、」
忍足の言葉に、手塚は振り向いた。
「…どういうことだ? 間に合わなかったって」
「…………」
「教えてくれ、何があったのか!」
「……そのことについては、僕がお答えしましょうかね」
聞き慣れない声が聞こえると同時に、手塚の左斜め後ろに白い煙がもくもくと立ち上った。
そして、その中から随分と派手な格好をした男が出てきたのである。
宙に浮いていた足をトンと石床について、男はおもむろに
「おや、とうとう死んでしまったようですね。 この冷血漢は」
あまりに突然なことに手塚が目を見張っていると、宍戸の叫び声が聞こえてきた。
「あ!! てめぇ、あんときの…!」
「…とうとうって何やねん。 お前が魔法をかけたんやろ」
「ああ、あのときの従者達でしたか。 思い出しましたよ」
「この男は、元々随分と冷血な男だったんですよ。
僕が老婆の姿に化けてこの城に来て、一晩だけ泊まらせてもらえないかと聞いたとき、
この男は姿が醜いだの、お前のような奴に宿を貸すような義理は無いだの、さんざん悪態をついて僕を閉め出したんですよ。
さすがに僕も頭に来たんで、この男と従者達に呪いをかけました。」
「…呪い?」
「あのテーブルの上にある薔薇をご覧なさい」
観月が指さした先は、ガラスのフードをかぶった一輪の薔薇の花だった。
以前に手塚がこの花を見たときには青い花弁がまだ何枚か残っており、不思議な淡い光を放っていたのだが、
今はもう花弁は全て落ち、以前の輝いていた様子も失われていた。
「あの薔薇がどうかしたのか?」
「僕はあのとき、彼にもう一つの呪いをかけていたんですよ。
あの薔薇の花弁が全て散るまでに人を慈しみ愛す心を知り、人から愛されるようになれとね。
もし、花が散るまでにそれができなかった場合は……最期の花弁が散ると同時に、彼の命も消えるようにと」
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